“最後の手触り”を作るーー『探偵!ナイトスクープ』が相談してくる建具屋

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『探偵!ナイトスクープ』からの依頼
制作会社からの電話を受けて、工場が少しだけざわついた。『探偵!ナイトスクープ』の出演依頼だ。その相談は、小さな鏡の縁。亡くなったおじいさんが、奥さん宛ての手紙を中に入れていた。でも、接着剤か何かでガチガチに固まっていて、開かない。
「手紙を取り出したい。でも鏡は壊したくない」……そういう相談が、大西商店には来る。
有限会社大西商店は、創業約90年の木工・建具の専門会社。高級建具から、10尺(約3m)を超える商業施設向けの大型建具、特注建具、組子細工、和洋家具まで幅広く手がける。
職人の手仕事を核にしつつ、大型機械も活用し、複雑な加工から精度の高い一点ものまで、用途と意匠に合わせた製作となる。

営業部長技術担当の里田渡さんは、普段は建具を作ってる。けれど、『探偵!ナイトスクープ』では、「ほどく」ことを優先した。木の仕事は「ほどく」ことでもあるのだ。閉じてしまったものを、壊さずに、開く……(同番組の結末は公式YouTubeに上がってる)。
現場は選べない。でも、“収まる瞬間”は選べる。
里田さんは現場担当。仕事は、営業が取ってきた案件が流れてくる。こちらから選べない。だけど、ひとつだけ、確実にテンションが上がる瞬間がある。それは、「スカッと収まった時」だ。

有名な案件なら、みんなテンションは上がる。分かりやすい。でも、もっと嬉しいのは、予想できずに流れてきた相談——「これ、どうしたらいいですか」みたいな、困り顔の仕事が、ちゃんと収まった時。“できひんことが、うちに出てきた”っていう喜び。その感じが、残る。あとあとまで残る。誇らしい。
職業訓練校で、最初にやったのは「刃物を研ぐ」ことだった。転職だった。前は業務用の床用ワックスの販売とか、掃除機のメンテナンスをしてた。悪くはない。でも、単純に面白くなかった。たまたま知り合いに職業訓練校の存在を教えてもらって、そっちに切り替えた。木が好きだった。ものづくりが好きだった。条件が全部合致した。

訓練校は木工科。最初の3ヶ月くらいは、半日ずっと研ぐ。研ぎまくる。昼からは基本をやる。少しずつ練習しながら、小さなものを作っていく。実技というほど派手じゃない。だけど、身体に入っていく。それが、いまの現場に繋がってる。
機械では残る“ざらつき”を鉋で消す
工場は、基本、機械で回す。スピードが間に合わないから。ここは割り切ってる。でも最後、出荷前。目や手で点検したときに、“目”を持ってるかどうかで、仕上がりが変わる。分かりやすく言うと、絨毯を逆目に撫でたとき、毛が立ってザラザラする感じ。木も一緒で、繊維の向きがある。機械でいくと、どうしてもその“逆目のざらつき”が残ることがある。
そこを、鉋で「しゅっ」と消す。紙やすりでこするんじゃなくて、鉋でつるっと仕上げたい。
段差や、面の取り方。触ったときの最後。「機械ではでききらないところ」を、手道具が取り返す。

新人にはまず、刃物を研げるようになってもらう。最低限の技術として。仕上がりの“つるっと”が何なのかを、身体で分かってもらう。特殊なものほど、手道具の出番が来る。使えれば、なんなくこなせる。だから、結局、最後に助けるのは鉋だったりする。

4人で1週間。四隅から同じ線を揃える
細かい仕事は、人数が必要になることがある。組子のような作業は、4人で1週間。
その前段の段取りや材料の準備まで含めると、2週間は欲しい。面白いのは、四隅から作業を始めること。みんな同じ視点、同じ技術、同じ“標準のライン”で揃えていく。1人でやるのも大変。4人でやるのも大変。でも、4人で揃った時の整い方は、やっぱり強い。

里田さんらは、エンドユーザーさんと会うことはほとんどない。設計さんか、現場の監督さんと話して終わる。だから、嬉しい言葉はシンプルだ。監督さんが「ありがとう」って言ってくれたら、それで嬉しい。「収まるか?」っていう最後のところを任されて、ちゃんと収めて、ちゃんと残るものを出す。
建具って、暮らしの中では“背景”になりがちだ。でも、背景って、いちばん触られる。いちばん毎日、目に入る。だからこそ、最後の手触りだけは、嘘つけない。
——“できひん”が来た時、里田さんはちょっと嬉しくなる。たぶん、この仕事のいちばん正直なところだと思う。




