暮らしを、遊ぶ家。——元店舗&民家に息づく、42歳のアウトドアライフ

大阪府堺市の住宅街に、ひときわ印象的な佇まいの家がある。
名は「渦居(うずい)邸」。玄関をくぐれば、すぐに中庭空間。ガレージとリビングをつなぐ中庭空間には、光が満ち、家全体にゆるやかな“抜け”がある。
その住まいをかたちづくったのは、登山とアウトドアをこよなく愛する42歳の男性だ。
「家は帰る場所じゃなくて、遊ぶ場所でいいと思う」
その言葉が、暮らしの景色を変えていった。
目次
“住むだけ”じゃつまらない——アウトドア好きが描いた、家の理想形
「自分の“好き”に囲まれて暮らしたい」
そんな思いが、リノベーションの出発点だった。かつて店舗と住居を繋ぐ小道は、天窓から光が差し込む明るい土間に変わり、趣味のアウトドアギア遊びにぴったりな空間となった。
「アウトドアが好きなんです。山に登って、絶景に出会う。それが一番の贅沢」
もともとはキャンプから始まり、今では近畿圏を中心に登山へ。
「登る理由は“絶景”と“無音”。忙しい日常から離れて、音もなくなる山の上で、ただ風を聴くのがたまらなくて」
そんな彼が、自分たちの住まいに望んだのは、“自分の好きに囲まれて暮らす”ことだった。
「住むだけじゃなく、遊び心がある家がいい。ガレージで車をいじったり、友だち呼んでバーベキューしたり、そんな日常がしたかったんです」
その夢が結実したのが、築年数の経った住宅をフルリノベーションした「渦居邸」だった。日々の暮らしのなかに、好きなことを。それがこの家のコンセプトだった。
“写真で伝える”から始まった、プロとの言語化セッション
家づくりにおいて、一番難しかったのは「イメージの共有」だったという。
「こっちは素人やし、感覚で“こういうの好き”って伝えても、伝わりきらないこともある。でもKUJIRAの松尾さんは、全部受け止めてくれて、いろんなパターンで返してくれた
送った写真やスクリーンショットは数知れず。それらを咀嚼して“翻訳”してくれたのが、KUJIRAのデザイナー・松尾だった。
「“これはやめといた方がいい”って、ダメなものもちゃんと伝えてくれる。それが逆に信頼できた」
素人の曖昧な言葉を、プロの手で形にしていくプロセスに、「一緒に作ってる」という実感が生まれた。
完成では終わらない。“未完成”のまま楽しむ余白
住まいが完成した日。「ときめいた」という言葉が、渦居さんの口から自然に出てきた。
「入った瞬間、わあってなった。これ、ぜんぶ理想通りやなって」
ただし、完成は“通過点”だ。
「まだここは、完成してへんと思ってる。ここから先も、趣味が増えたり、暮らし方が変わったりする。そのたびに、家もちょっとずつ変えていけたらええなって」
“あえて残す”という選択肢も、KUJIRAとの対話のなかで生まれた。住みながら、育てていく。そんな“遊び”の余白も、この家の魅力だ。
“家”が変わると、“人”も変わる——夫婦の時間とリズム
「リノベーションって、家が綺麗になるだけやと思ってた。でも、気持ちまで変わるんですね」
渦居さんがそう言うように、暮らしの変化は、夫婦の関係にも波及した。
「奥さんが家でゆっくりしてるのを見るだけで嬉しい。“ああ、これでよかったな”って思える。家にいる時間が、より深くなったんです」
もともと仲の良いご夫婦だったが、家をつくる過程でぶつかり合い、乗り越えたこともあったという。
「喧嘩もした。それは、お互いの“妥協したくない”って気持ちがあったから。話し合う時間が増え、結果的にもっと仲良くなった」
家が心を変える。それは、渦居さんの中にある、確かなる実感だった。
地域に“ひらく”家——マンションから一軒家へ変わったこと
もともとはマンション住まいだった。一軒家に住みはじめて初めて経験したのが、“回覧板”や“ご近所付き合い”。
「最初はちょっと戸惑いました。でも掃除に出てみたり、おばちゃんと立ち話したり。今では、近所の人が“見せて”って訪ねてくることもあります」
リノベーションによって得たのは、家の内側だけじゃない。
「地域にひらいていくって感覚、前はなかったですね。街とつながってる感じがあって、意外とそれが心地いいんです」
「やりたいことは全部言った方がいい」——未来の施主に向けた言葉
最後に、これからリノベーションを考える人へ、こんな言葉を残してくれた。
「これ言ったら迷惑かな……とか考えずに、やりたいことはぜんぶ言った方がいいです。遠慮せずにぶつけたら、相手はプロやから、ちゃんと受け止めてくれますから」
写真を送り、アイデアを重ね、やりたいことをすべて伝えた結果、生まれたのがこの渦居邸だった。
「この家がきっかけで、“俺も中古買ってリノベしようかな”って言ってくれた友人もいたんです。それが、めちゃくちゃ嬉しかったですね」
理想の暮らしをかたちにした人の言葉には、なによりの説得力がある。そして、この家は、これからも育ちつづけていく。