「職人じゃなくてエンジニア」――イサミ電設が描く建設業のかたち

「田中さんに聞いたら、たいていなんとかなる」
そんなふうに頼られる人がいる現場は、きっといい現場だ。それは、技術力だけじゃなく、人柄だけでもなく、「誰かの困った」を引き受ける器の大きさがあるからだ。
イサミ電設・代表、田中勇気。電気工事から始まり、内装、造作、空調、通信、設計、そして図面作成まで。いわば、建設業の“何でも屋”だ。でも彼は、そんな肩書きよりも、こう言ってほしいのかもしれない。「電気が好きで、学び続けてる人」だと。
目次
「憧れたのは、1人で電気を操る姿」
きっかけは意外なところにあった。知り合いの医療サービス施設の施工を得意とする会社で手伝いを始めたころ、現場で見かけた一人の職人。手術室の電気配線を、たった1人でスマートに仕上げ、「じゃ、終わったんで帰ります」と軽やかに現場をあとにした。
「かっこええな」
その背中が、田中さんを電気の世界に引き寄せた。
25歳でこの世界に入り、現場での修業を経て、独立。2016年には法人としてのイサミ電設を構え、以来、幅広い施工と柔軟な対応力で、クジラの現場にも深く関わってきた。
「配線だけじゃなく、気配も読め」
電気工事の仕事には、終始“見えないもの”がつきまとう。壁の裏に走る配線。点灯スイッチの先にある回路。そして、事故や損害を避けるための責任感。
「電気は、見えへんから怖い」
大工も解体屋も触るのをためらうなか、田中さんたちは、何が流れているかを“察しながら”作業を進める。
近年では、オフィスの電源遮断ひとつでサーバーが飛び、数百万規模の損害が出るケースもある。だからこそ、慎重に計画し、丁寧に伝える。「見えないもの」にこそ、最も気を配る。それが、いまの電気工事のリアルだ。
「職人じゃなくて、エンジニア」
「うちは何でもやるんです」
その言葉に偽りはない。照明計画、LAN配線、空調、外構、塗装……。
それは“便利屋”としてではなく、お客さんにとって“無駄な工程”を減らすための選択だ。
彼は言う。
「職人という言葉に、ずっと違和感があった。目指してるのは、“エンジニア”。腕や技術はもちろんのこと、知識と情報で勝負する立場を作りたいんです」
だからこそ、図面は自らCADで引く。ソフトの使い方も独学でマスターした。
「レクチャーを受けるより、いじって覚えるほうが性に合う」
ソフト会社の営業が「一緒に売り込んでくれませんか」と頼むほどの習熟ぶりだった。
「照らす先は、まだ見ぬ景色」
照明の世界も、進化が止まらない。かつて主流だったダウンライトは減り、代わりに登場したのは、1cm幅の細いライン照明。天井に仕込み、壁に沿って光を落とす。
「天井が光ってるように見えるんです」
まるで、空間そのものが光源になったかのような、そんな演出。こうした新しい表現を取り入れるには、知識とセンスがいる。
「海外のホテルの事例は、いつもチェックしてます」
グランピング施設、ヴィラ、カフェ風住宅――非住宅的な空間を、住まいに求める声が高まるなか、田中さんのアンテナは常に高く張られている。
「子どもじゃなく20代に憧れられる存在に」
「子どもが憧れる職業に」
そんなフレーズはよく聞く。けれど田中さんは、少し違う角度で未来を見ている。
「僕は、10代後半や20代の子に“ここで働きたい”って思ってもらいたいんです」
現場の空気、働く人の姿、対応の言葉。どれもが次の世代の職業観を形づくる。そのためにまず、自分たちの在り方を変える。
「この業界を、もっと開いた世界にしたい」
その一歩を、田中さんは静かに、確実に踏み出している。