「ちょうどいい」余白バランスを探り続ける家——高槻市(大阪)のアウトドア好き夫婦【KUJIRAリノベーション・ドキュメンタリー】

大阪・高槻。かつて新興住宅街として開発されたこの町も、築30年を超える戸建が並ぶエリアでは、どこか懐かしく穏やかな時間が流れている。その一角に、ふと目を引く家がある。大きな土間、吹き抜けリビング、整えすぎない開放感。訪れた誰もが「なんか、落ち着くね」とつぶやいてしまうこの家の主は、アウトドア好きの戸松敬昌さんと栞さん夫婦だ。
「ちょうどいい家にしたかったんです。おしゃれすぎず、でも雰囲気は欲しい。人が来ても気を遣わず過ごせて、僕らもくつろげる、そんな空間が理想でした」(敬昌さん)
2人がリノベーションで叶えたのは、「自分たちのため」だけじゃない。誰かがふらっと来て、気づけばソファに腰かけ、ビール片手に談笑している。この家は、“暮らし”と“遊び”の境界線が、ふんわりと溶け合ったような場所だった。
目次
「キャンプも、家づくりも、最初は勢いで」
家を探し始めた頃、2人の趣味はキャンプだった。
「最初は外で寝るなんてありえん!って言ってたんですけどね」
そんな(敬昌さん)さんの笑い声の横で、(栞さん)さんが思い出すのは、初めてテントを買って臨んだ淡路島でのクリスマスキャンプ。加熱しすぎて真っ二つに割れた土鍋も、いまでは愛おしい記憶だ。
キャンプ好きは、いつしか登山好きに。今では滋賀を中心に、関西近郊の山々を巡る日々。
「稜線から琵琶湖が見えるあの景色、あれはやっぱり癒されますね」(敬昌さん)
コロナ禍を機に、キャンプブームが加速した頃には、「予約が取れへんし、じゃあ山登ろうか」と方向転換。今ではアルプスにも足を運ぶほど、アクティブに季節を楽しんでいる。
「見た目は大事。“くつろげるかどうか”はもっと大事」
リノベーションを前提に家探しを始めた2人が選んだのは、高槻の築30年超の一軒家。庭付き、広さよし、そして何より“土間が取れる”ことが決め手だった。
設計はKUJIRAが担当している。雑誌『GO OUT』を片手にイメージを共有しながら、20-30回の打ち合わせを重ねたという。
「言葉って難しくて。『おしゃれ』って言っても、人によって全然違うんですよね。だからPinterestとかで画像を見せながら、イメージをすり合わせていきました」(栞さん)
もともと上階を部屋として使う予定だったが、KUJIRA建築デザイナーの提案で思い切って吹き抜けに。
「空調効きにくいからやめとこうと思ってたんですけど、思い切ってぶち抜いてみたら、やっぱり開放感が全然違う。冬は寒いけど、こたつ買ったら快適です(笑)」(敬昌さん)
「おもてなしじゃない、“ただいま”みたいな家」
この家の最大の魅力は、誰もが自分の家みたいにくつろげること。
「僕、いちいち『これ使っていい?』とか言われるのが苦手で(笑)。勝手にソファ座っててくれた方がラクなんです」(敬昌さん)
最初は2人用の椅子しかなかったが、友人が来るたびに椅子が1脚、また1脚と増えていった。今ではお尻の数を超える椅子が集まっている。お話をうかがったその日も、ご友人が宿泊されていた。
「天六に住んでた頃は、外で飲むのが当たり前だったけど、今は“家で飲もか”って」(敬昌さん)
玄関横の土間では、キャンプ道具の準備ができるし、帰宅後はそのまま片付けられる。生活動線も遊び仕様になっている。ウォークインクローゼットや水まわりの位置も、実際の生活を想定して設計した。
「リノベって、家を“完成させる”ことじゃなくて、暮らしを“育てる”ことなんやなって思います」(栞さん)
「おしゃれすぎず、散らかってても“味”に見える家に」
“憧れの暮らし”を叶えたこの家は、見た目だけじゃない。
「雑誌に載って、誰かに褒めてもらえるのもうれしいですけど、
それよりも、多少散らかってても“味やな”って思える空間にしたかった」(敬昌さん)
ちょうどいい。
この言葉が、何度も2人の口からこぼれる。
「冬は寒いけど、上着着ればいいやん、とか(笑)」(敬昌さん)
「暖房禁止やから、寝袋で寝たりしてます」(栞さん)
その感覚は、まるで“アウトドアの延長線上にある暮らし”。空調に頼らず、道具を駆使し、季節に合わせて工夫しながら暮らしていく。
「5年経っても、まだアップデート途中です」(栞さん)
季節に合わせて家具が変わり、人の流れに応じて椅子が増え、リビングの過ごし方も、年々変化している。
“完成形”なんて、きっとどこにもない。でもそれこそが、2人にとっての「ちょうどいい暮らし」なのかもしれない。