「じゃあ、家にバーをつくろう」市場のそばで、キッチンを中心につながる家

昔から二人で呑みに行くのが好きだった夫婦。けれど今は、小学3年生と年中の子どもがいる。夜にふらりと出かけるのは難しい。「じゃあ家にバーを作ろう」そんなひと言から、暮らしをまるごと再編集する家づくりが始まった。天満市場の恵みと、キッチンを中心に毎日を過ごす家を覗いてみたい。
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家族が“見える”キッチン中心の間取り

大阪市北区。梅田の喧騒から少し離れた住宅街に佇む中古マンションが、K家の新しい暮らしの舞台だ。
元々この近くに住んでいたが、家族で過ごす時間をもっと自然につなげるために、リノベーションを決意した。
「子どもが何してるか“見える”家にしたかったんです」

以前の家は、キッチンは壁に向かい、部屋は分断され、子どもたちが寝室にいるとまったく状況が見えなかった。
「今の家は料理をしながら宿題を見れるし、途中でつまみ食いもさせてあげられる。料理が好きなのもあるんですけど、ずっとキッチンに立ってしまいますね」とご主人。

家の中心にオープンキッチンを据え、家族の気配が常に届く間取りへと生まれ変わった。天満市場で買った食材を調理しながら、子どもたちの様子を見守る。そんな時間が自然に叶えられるようになったのだ。
料理を振る舞う叔父に憧れて
ご主人が料理を好きになったきっかけは、小学生の頃に遡る。
「親戚みんなで4階建てのビルに住んでて、料理上手なおじさんが毎日ご飯を作ってくれたんです。食事をきっかけにみんなが集まって話が弾む。それがすごく楽しくて、見よう見まねでやってたら自然と覚えました」
さらに、ご主人の料理観を決定づけた習慣があった。
「母親がいないとき、『好きなの食べっ』て、500円玉を置いてくれてました。ワンコインってお弁当買ったらそれで終わり。でも自分で食材を買ったら好きなものをいっぱい食べられる。いかにいっぱい作れるか、楽しんでました」

そんな生活が当たり前だったから、料理は今も身体に染みついている。
仕事で頭を使う日々、料理とお酒はご主人にとって“心が整う時間”でもある。家族がママ友会で出かけている日には、ひとりでワインを飲みながら仕込み料理を楽しむことも多い。
人を呼んで振る舞うのも好き。ひとりで飲むのも好き。そのどちらも叶えられる家にしたかった。

呑みに行かなくても、新居のカウンターに並んで。
夫婦共通の趣味は“呑みに行くこと”。
「呑むならカウンターのあるバーが好き。横並びって照れへんし、本音出やすいんですよね」

しかし子育て中の今、夜に出かけるのは難しい。そこで生まれたのが、冒頭のひと言。
「じゃあ家にバーを作ろう」オープンキッチンを囲むカウンターと畳のベンチ、導線、照明の落とし方。細部まで“お店みたいだけど落ち着く空間”になるよう設計されている。
このアイデアは、デザイナー松尾からのプレゼントでもあった。多くても10回という打ち合わせ回数は、K邸では15回を超えたそう。
「うわ〜今週もあるんか〜って思うくらい(笑)。でも、あれだけ僕らの暮らしと本気で向き合ってくれたから、幸せな今があります」

市場が近いことも、この物件を選んだ大きな理由だ。
「飲食店が多いので、市場に良い食材が多いんですよ。イワシなんかも新鮮だから刺身で食べられる。普通のスーパーじゃ絶対無理です」
天満市場の食材は、ご主人の料理の幅を広げ、もてなす楽しみも深めてくれる。
すべての部屋がいつまでも「役割を持つ」

K邸には、無駄な部屋がひとつもない。それは今と未来の両方を見据えて設計されているからだ。
「子どもが大きくなったら、寝室を仕切って子ども部屋を作れます。巣立ったら仕切りを外してまた広く使える。今は子どもの物置になってる書斎も、将来的にはちゃんと書斎として活用できますし」
四人暮らしでも、二人暮らしでも、部屋は自然に役割を持ち続ける。
ご主人の好みは昔から“手間のかかる料理”。
「パンチェッタとか、1〜2週間仕込む料理が好きなんです。塩漬けして味がどう変わるんやろうって経過を見るのが楽しい。子どもが一番好きなのは、うどんみたいですけど(笑)」
役割を変えながら育つ家のように、家族の味覚もゆっくりと育っていく。何日もかけたパンチェッタより、今日の子どもたちはうどんを選ぶ。その無邪気ささえ、いつか“手間の愛情”を思い出す伏線になるのだろう。





