2026.03.24
最終更新日
2026.03.24
施主様インタビュー

“合理的”に選んだ家を“本音”でつくり直す「23時に始まるお菓子作りも」

利便性や効率を優先するあまり、自分自身の感性に蓋をして暮らしてはいないだろうか。大阪市内の戸建住宅に暮らすIさんは、かつてそんな喉に刺さった小骨のような違和感を抱えながら過ごしていた。

家選びの最大の理由は、子育てのしやすさ。夫の単身赴任が決まっていたため、「実家の近くなら頼りやすいだろう」という合理的で真っ直ぐな優しさが、その立地を選ばせた。それは離れて暮らす家族を想う夫なりの、最善の献身であったといえる。

ただ、家族を守るための“器”として用意された建売住宅は、機能性を重視する夫の価値観には叶っていても、デザインを愛するI様と息子さんの感性とは、どうしても重なりきらなかった。

それから27年。子育てが一段落し、夫の帰任が決まったタイミングで、I様は長年温めてきた“自分たちの本音”を形にするためのリノベーションを決意する。

「部屋がほしい」画用紙に描かれた理想の空間

I様のデザインへの情熱を紐解くと、幼少期の原体験に突き当たる。3人兄弟で育った彼女には、当時“自分の部屋”というものがなかった。その切実な渇望は、言葉になるより先に画用紙の上に溢れ出した。

「ずっと自分の部屋が欲しくて、幼稚園ぐらいから画用紙に『私の理想の部屋』を描いていました。それが成長するにつれてどんどん大きくなって、いつの間にか理想の一軒家を描くようになっていたんです」

都会育ちだった彼女が紙の上に描いていたのは、家の真ん中に中庭がある、光の溢れる邸宅。思い返せば、その頃からずっと“家”という存在そのものへの関心が強かったという。

大学卒業後、設計事務所の門を叩いたのも自然な流れだった。結婚を機に実務からは離れたが、幼い頃から温め続けてきた“理想の風景”の断片は、彼女の中に消えることなく残り続けていて。夫が家族のために整えてくれた暮らしの基盤の上で、彼女は再び、あの頃描いた夢の続きを手繰り寄せようとしていた。

“なんちゃってじゃない”素材だけを集める

27年過ごした家をリノベーションするにあたり、I様が最も譲れなかったのは“素材”の選択だった。世の中には、木目を印刷したシートや、石の質感を模した樹脂など、いわゆる「なんちゃって」の素材が溢れている。効率やコストを考えればそれも一つの正解だが、I様の感性はそれを拒んだ。

「素材が決まると、家の風格が出る。だから、なんちゃってはあまり好きじゃないんです。手触りや質感がどうしても気になってしまうし、自分の目で見て決めたいんです」

平田タイルのショールームで一目惚れした「モザイクタイル」や、憧れの土壁の質感にできる限り近づけた「漆喰の壁」。自分の感性に向き合い、一つひとつ吟味して選んでいった。

また、I様は自ら手を動かすことも好む。革を扱い、クッションを作り上げるほどの腕前だ。その“作ること”への探究心は、知らず知らずのうちに息子さんにも受け継がれていた。

「息子は自分で洋服を作るんです。旅行に合わせて新調することもあって」

そう語る彼女の表情には、照れ臭さが見えつつも、母としての誇りが滲む。親子揃って、自らの手で理想の形を仕立て上げる。その根底にあるのは、既製品に自分を合わせるのではなく、自らの感性で新たなものを生み出していく、職人気質ともいえる性格なのだろう。というより、終始楽しそうな二人は、自分で自分を喜ばせられるエンターテイナーなのかもしれない。

“本音で選んだキッチン”が生んだ家族の調和

リノベーション後の家は、単なる住居を超え、家族の体温を色濃く反映する空間へと生まれ変わった。特に大きな変化を生んだのは、キッチン。面積が大幅に広がったわけではない。しかし、彼女がこだわった“質感”や“手の届きやすさ”が、思わぬ家族の調和を生んだ。

和歌山の大学に通う息子さんは、週末になると電車で1時間30分ほどかけて、この家へと帰ってくる。

「キッチンが新しくなってから、息子が料理をするようになりました。アルバイトから帰ってきて、夜の11時からお菓子作りを始めることもあるんですよ」

その日の気分に合ったケーキを焼くこともあれば、和歌山でゆずを買ってきて、シャーベットを仕込んだこともあったという。そして一緒に味見をする。そんな何気ない、けれど贅沢な時間が、今のI様邸の日常となった。

立地や条件という枠組みを否定するのではなく、その上に自分たちの本音を重ね合わせること。家族にとってリノベーションとは、夫が築いた安心という土台の上に、家族それぞれの個性を生かしたまま調和させるための手段であった。

自分の感性に嘘をつかず、素材にこだわったことで輪郭を表した、濁りのない穏やかな時間。本音と本物に囲まれた暮らしが、互いの存在をより心地よく、愛おしく感じさせてくれるのだろう。

▼WORKS|施工事例

WRITERこの記事を書いた人

クジラ 編集部

中崎町にあるリノベーション会社です。不動産探し、住宅ローンのお手伝い、設計デザイン、施工、インテリアコーディネートまでワンストップでお手伝いさせていただきます。お客様に最適な暮らし方のご提案をさせていただきます。

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