【弁護士が解説】トラブル回避!リノベーションの請負契約とは
スマホで何でも調べられる時代。
買い物や旅行、飲食店に行く際も口コミを検索する方が多いのではないでしょうか?
しかし、「リノベーション 口コミ」などで検索するとネガティブな情報も目立ちます。
中でもリノベーションのトラブルにまつわる情報を集めていくと、「請負契約」という聞き慣れない言葉が。
リノベーションという高額な費用を必要とする取引において大切な請負契約についての知識を、法律の専門家である弁護士とクジラ株式会社代表の矢野に聞いてみました。
ーネットで検索してみるとリノベーションによるトラブルって結構出てくるんですね。
矢野:クジラ株式会社にも一年に数件、「他社にリノベーションを頼んでるけど、上手くいかなくて、、」という相談の問い合わせが来ますね。
佐藤:クジラ株式会社はお客さんとトラブルになってないですか?笑
矢野:お陰様で大丈夫です。笑
佐藤:安心しました。しかし、リノベーションの分野というのは弁護士への相談がよくある印象です。
矢野:お客様とのコミュニケーションが大切なことは大前提となりますが、やはり契約内容が少し難しい気もするんですよね。おそらく、リノベーションを依頼する契約書の中身に難しい言葉が多く、内容が理解しづらいのが原因かもしれませんね。
佐藤:今日はその辺もわかりやすくお話できればと思います。
目次
初めて聞く「請負契約」
ーそもそも請負契約という言葉自体、あまり聞き慣れないですよね。
佐藤:そうですね。日常生活ではほとんど耳にすることのない言葉だと思います。
みなさん“契約”そのものにあまり馴染みが無いんですよね。しかし、例えば、私たちの生活においてお金を払って何かを買ったりするものは、ほとんどが「売買契約」となります。
矢野:書面は無いけど、契約が成立するってやつですよね。
佐藤:そうですね。コンビニでおにぎりを買うような少額のものから、不動産や車の購入まで、対価を払って物を取得する契約は全て売買契約になります。
売買契約では買う人を買主、売る人を売主と言うのでわかりやすいのですが、リノベーションを依頼する際の請負契約ではお客様が「発注者」、クジラ株式会社が「受注者」という表現になりますね。
請負契約は、受注者において、契約で定められた仕事(リノベーション)の完成を約束し,発注者はこれに対して対価を支払うことを内容としています。つまり請負契約は売買契約と異なって、何か既に存在する価値ある物に対価を支払うわけではなく、これから創り上げられる(=今は存在しない)仕事に対して対価を支払うという契約になります。
この辺から請負契約というのは、“大きな費用を払うものの、売買契約とは全く異質である“ということを最初に理解しておくと、その後に続く詳細な内容も理解しやすいかもしれませんね。
矢野:僕自身もいろいろネットで検索したんですけど、請負契約についての情報ってほとんど「費用をちゃんと確認しましょう」「細かい工事内容は?」「いつ引き渡されるか」などの工事本体の内容確認についての説明が多い印象でした。
工事内容さえ把握していればトラブルにならないなら安心ですが、実際はそんなことはないはず。契約である以上「どういう約束なのか?」という視点で教えて頂きたいです。
佐藤:請負契約において、受注者の義務については、多くの方が正しいイメージをもっていますので、その点の理解不足によってトラブルに発展するということはあまり多くない印象ですが、発注者の義務としては、報酬を支払う義務のみに焦点が当てられがちで、その他の義務については見落とされていることが多いように思います。そして、トラブルの根源を突き詰めると、この発注者の義務についての理解不足が根源になっている事案が見受けられます。そのため、以下では「発注者の義務」に注目してみましょう。
発注者の義務
ー発注者の義務とは具体的にどんなものでしょうか?
藏野:請負契約書には発注者の義務としていくつかの記載があります。例えば、請負契約書の定めには、「設計内容を正確に伝えるため、受注者と打ち合わせ、必要に応じて説明図等を作成し、受注者に交付すること。」と定められている場合があります。
藏野:これは、目的物を作るための専門的な技術は受注者が責任を持つけども、”何を目指して作るか”についての正確な指示・説明は発注者がしなくてはならないということですね。
佐藤:この発注者の義務が請負契約における大きなポイントとなります。ほとんどの人が日常生活において「お金を払えば、あとは完璧に満足させてくれる」と思っています。事実、ほとんどの買い物(売買契約)には接客などのサービスもしっかりついてくるのが日本です。
矢野:日本にはチップを払う習慣が無くて、全てのおもてなしは価格に含まれるという認識ですよね。
佐藤:そうですね。この「お金を払えば、あとは完璧に満足させてくれる、プロに任せるんだから」というような認識が落とし穴です。
請負契約は、発注者が作りたいけど技術的に作れないものを、技術を持った受注者に依頼して作ってもらうときの契約です。つまり、請負契約は、「何を作るか」について発注者と受注者が「話し合って最終的に確定した内容」を、受注者が責任をもって完成させるという契約なのです。
この時に注意したいのが、発注者が考える「完璧」の内容や、発注者が「作りたい」ものの内容を明確に受注者に伝え、受注者とその内容を合意しなければ、請負契約の内容にならない、つまり後で「思っていたものと違う」と感じてもリノベーション会社に責任を問うことができないということです。
もちろん、リノベーションにおいては、お客様は圧倒的に技術的な知識や経験が不足していますので、細かな工法等については、専門的知識や経験を有しているリノベーション会社が責任をもつ必要がありますが、そもそも「何を作るのか」というゴールについては、発注者がきちんと明確に説明しなければ何も始まりませんし、その説明内容については発注者も一定の責任を持たなければなりません。
つまり「最初はそう思ってお願いしたけど、やっぱりこうしておけばよかった」というような発注者の不満については、請負契約の性質上、受注者であるリノベーション会社に責任を問うことは難しいということです。
矢野:クジラ株式会社のお客様にもディレクター陣は「僕らの提案内容を、最終決定する前にしっかり疑ってください」と伝えています。
佐藤:どれだけ技術的に優れたものを作っても「思っていたものと違う」というお客様の一言でトラブルに発展するのがリノベーションでもあります。結局、正解はお客様の頭の中にしか無いわけです。
ーリノベーションについて素人であるお客様が正解を持っているんですか?
佐藤:もう少し正確に表現しますと、お客様満足度の視点において、正解はお客様の頭の中にあります。しかし、請負契約という法的視点においての正解は、契約書やそれに添付される仕様書や詳細資料に記載された内容になります。お客様の頭の中は外から見えませんので、トラブルになったら外から確認できる契約書等の客観的証拠で正解を判断せざるを得ません。
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矢野:確かにそういう場面よくあります。例えばフローリングをどれにしようか悩んでいる場合とか。
クジラ株式会社では、
①図面
②CGパース
③建材サンプル
という順番でお客様に確認していただきますが、②CGパースでデザインを決めた後に、③建材サンプルを見ながら最終決定する時にものすごく悩みます。
サンプルって現物が小さい上に、照明の当たり方で見え方も変わります。
何より、実際はサンプルよりも圧倒的に広い面積にフローリングを貼ることになるので、実物を見た時に受ける印象が人によってかなり違うんです。
これは僕たちからも「完成した実物を見た時に少し違う印象を受ける場合があります」と必ず説明します。
そもそも色や柄など、同じものを眺めても、人によって受ける印象は全て違うわけですから。
佐藤:フローリングや壁紙などの表面に貼る物以外でも先述の”2つの正解”がズレる可能性は至る所にあります。
「ズレていないか」と常に意識、注意しながら慎重に打ち合わせは進めていくべきですね。
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実際にあったトラブル
ーリノベーションの請負契約にまつわるトラブル相談も多いのでしょうか?
佐藤:やはり一定の割合でトラブルは起きている印象を受けます。やはりご自宅を建てる、リフォーム・リノベーションするというのは決して「お金を払ったら後はやってくれる」というような簡単なものではないことがわかります。
矢野:起きがちなトラブルの傾向とか事例ってありますか?
藏野:過去の事例は、裁判例を遡るとわかりやすいです。
例えば、発注者が工事に協力しなかったがために生じた紛争に関する裁判例があります。
受注者がリフォーム工事を受注したが、発注者が行うこととなっていた工事を行わなかったために、リフォーム工事が中断されてしまった事案(東京地判平成20年9月16日)。
リフォーム工事を行うにあたって、発注者の方で玄関に珪藻土塗りを行うことになった。しかし、発注者が珪藻土塗りを行わなかったため、その後に控えていた受注者の工事ができず、リフォーム工事が中断することになった。
発注者は、リフォーム工事が中断したことについて損害賠償請求を行なったが、裁判所は「リフォーム工事の中断は、発注者が行う珪藻土塗りがなされなかったことが原因にあり、それは発注者の責任である」と判断し、損害賠償請求を認めなかった。なお、本件では受注者が中断した工事に関する請負代金の支払いを求めたが、裁判所は、前述した判断から、請負代金の支払いを認めた。
他にも、リフォーム工事後に騒音問題が生じた裁判例があります。
リフォーム工事後における壁等の遮音性能が問題となった事案。
遮音性能は「D45」といった形で数値化できるが、本件では請負契約書に遮音性能に関する記載がなかった。裁判所は、請負契約書に具体的な定めがなくとも、発注者と受注者の合理的意思解釈の結果、D60ないしD65の遮音性能が必要と判断した。
このように、「発注者の協力が必要な時に、協力が得られなかった」「契約書には具体的な数値が記載されていなかった」というような事情から紛争が生じることはよくあります。
また、先程の話に関連するトラブル事例として、請負契約書やそれに添付された図面などに、お客様が望むリノベーション内容が明確かつ具体的に記載されていなかったり、図面と異なる合意を口約束で済ませてしまって、後で「言った言わない」というトラブルに発展することも多々あります。
どうすれば安心?
ー請負契約というのがどういう約束なのかが段々理解できてきました。では、実際にはどういうところを気をつけるべきなのでしょうか?
佐藤:打ち合わせへの取り組み方が重要です。とにかく大切なのは「相手は専門の人だから、言わなくても伝わっているだろうという気にならない」「わかった気にならない」ということです。これは契約する前も、契約後のリノベーション内容の打ち合わせでも全てにおいて言えることです。
そして、これも非常に重要なのが「とにかく記録を残す」ことです。LINEやメールなど双方向のコミュニケーションが日時も含め残すことが望ましいですが、ご自身で書いたメモなどでも構いません。打ち合わせで確認した資料については、打ち合わせの年月日、参加者等の記録を残します。できれば、メール等で相手方にもその記録を確認してもらい、お互いの共通認識になったことも記録として残すと良いです。
記録に残す癖をつければ、打ち合わせ内容の漏れに気づく機会になりますし、万が一大きなトラブルに発展した時にも非常に役に立ちます。
我々が相談を受けた過去の事例においても、記録が無いものは交渉が難航し中々解決に辿り着きません。言った言わないの水掛け論や「あの時傷ついた」などの感情論にもよくなりますが、記録が十分ではなく、事実関係やお互いの責任関係がはっきりしないので、費用負担や裁判の手間を避けてお客様側が泣き寝入りすることにもなりかねません。
とにかく”細かな打ち合わせ”と”細かな記録”です。
ーリノベーションのプロとしてはいかがですか?
矢野:僕が思う注意点は、お客様に合うリノベーション会社をしっかり選ぶために、リノベーション費用に見合ったコストパフォーマンスについてしっかり考えていただくことだと思います。
ー大きなお金を払うからこそ「コスパが良かった!」って言いたいですよね。具体的にはどういうことですか?
矢野:これまでたくさんのお客様と一緒にリノベーションしてきましたが、必ずクジラ株式会社が選ばれるわけではありません。しかし、他社と契約されたお客様に理由を教えてもらうと「一番安い会社に依頼した」という回答がダントツで多い。
佐藤:それは良くない傾向ですよね。先述の通り、請負契約は売買契約とは違います。同じものに同じ費用を払って買い物している場合は、「同じものでもより安いもの」というのがコストパフォーマンスが高いと言えます。しかし、請負契約、特に詳細な決め事がたくさんあるリノベーションでは、会社ごとに「同じものが出来上がる」ということがほぼあり得ません。
矢野:クジラ株式会社では毎月リノベーション勉強会をやっているんですけど、そこでも必ず「会社ごとに得意分野がある」ということを時間をかけて説明します。安さ重視の場合に、リノベーションの細かな仕上がりについては、お客様の意思が反映されておらず、リノベーション会社へおまかせになっているのが実情です。
つまり「価格が安いだけが、コストパフォーマンスではない」というような意識を持つところから始めるのが良いと思っています。
請負契約とは一緒に作ること
ー最後に今リノベーションをご検討されている方にアドバイスはございますか?
佐藤:まずは契約書をちゃんと読みましょう。笑
分からないところは遠慮なく確認を取ってください。
日本はとにかく契約書の中身を読んでない人が多い印象です。法律相談にいらっしゃる方にも契約書を読み直して「こんなことが書いてあったのか」という方がいらっしゃいます。その上で今日説明したように、関わる人みんなで一定の義務を果たしていく必要があります。
矢野:クジラ株式会社ではお客様に「結婚式の打ち合わせよりも大変なんで覚悟しておいてください」と、初めに説明してLINEグループを作ります。お客様とクジラ株式会社スタッフのコミュニケーションが何よりトラブル防止になると思っています。
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佐藤:素晴らしいですね。請負契約とは「こんな家に住みたい!」という発注者(お客様)とそれを技術的に実現可能なプロフェッショナルである受注者(クジラ株式会社)が一緒に作っていくための契約です。
そういう意味では、「お金払ったんだから、あとは完璧にやってくれるはず」というお客様も、「あとはプロである我々におまかせください」というリノベーション会社もスタンスとしては少し物足らないかもしれませんね。
人生において一番大きな買い物と言っても過言ではないのが住まいです。お客様側も苦手意識を持たずにリノベーションに対して一歩踏み込んで勉強し、リノベーション会社のみなさんもより親切なサービスを磨いていくことで、我々にリノベーションのトラブル相談が来なくなる日がいつか来るかもしれませんね!
矢野:佐藤先生、藏野先生、今日はありがとうございました!
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