2024.05.19
最終更新日
2024.09.13
施主様インタビュー

インタビュー|「直感でイメージが湧いた」若者・子どもたちにとって、繁華街の新しい居場所を。

NPOのリノベーション

10代を孤立させないセーフティネットをつくる、認定NPO法人D×P(ディーピー)(以下、D×P)。

大阪ミナミ・グリ下に集まる13〜25歳の若者と触れる中で「大阪のミナミエリアにユースセンターを作る」と決意。

どんな思いでユースセンター構想に至ったのか、どういうアイデア・工夫を盛り込んだユースセンターなのか、そしてこれからのこと。クジラのPJメンバーが、D×Pにインタビューしました。

コミュニケーションスペース

▼今回のPJメンバー

D×P代表:今井様
D×Pスタッフ(ユースセンター担当):野津様
クジラ代表:矢野
クジラディレクター:田中
クジラデザイナー:藤本

都会の真ん中にユースセンターを作る。

–ユースセンター開所以降、大変お忙しいと聞いております。

野津様:元々、さまざまな背景がある若者が居場所を求めて集まるグリ下の近く(道頓堀のグリコの看板の下あたり、川沿いのエリア)に、テントを貼って食事やお菓子、ドリンク、充電スポットを無償で提供する「フリーカフェ」を運営していました。

今井様:そこから、今回のユースセンターに活動拠点を移すとなった際は、「集まる若者の数は減りそうだね」と話していました。

野津様:路上で行っていたテントでのフリーカフェと違い、よくわからないビルの中の3階にエレベーターに乗って…という形ではそもそもビルに入りづらいのではないかと思っていました。

しかし開所してみると想定以上に若者が利用しているので驚いています。

矢野:実際にフリーカフェの時と比べて、若者の様子の変化やユースセンターへのリピート率などの変化はありましたか?

野津様:2023年夏に開所しましたが、すでに約700人の若者が利用しています。(インタビューは2024年4月)

1~2回だけ利用する若者もいますが、中には10回、20回と利用している方もいます。

矢野:今は週二日ほどの営業と聞いてます。その限られた営業時間の中でこれだけの利用者数はすごいですね…

野津様:「相談に乗ってほしい」という理由で、ここを訪れる方もいますが、多くの若者は「友達に会いに来た」「ご飯を食べに来た」といった理由で訪れていると感じます。

何度も顔を合わせている中で、D×Pスタッフと会話をすることも増えていきます。そこから「ちょっと聞いて〜」という会話から相談に発展することもあります。

若者をとりまく過酷な現状

−ユースセンターの構想に至った時のお話を伺ってもよろしいですか?

今井様:D×Pでは元々、生きづらさを感じている10代の子どもたちに向けてオンライン相談サービスを実施していました。そんな中、東京ではトー横、大阪ではグリ下と言われるようなところに子どもたちが集まっていると聞くことが多かったので「まずはグリ下でテントを出してみよう」となったところが始まりです。

いざテントでフリーカフェを開始してみると、「親から暴力を受けている」「アルバイトしたお金を親に取られてしまう」「そういった相談は学校でも話せない」という過酷な現状を知ることになりました。

今井様:これは一刻も早く、長期的な支援、そして衣食住の確保が必要だと感じましたが、テントでの活動では、相談しやすい環境をつくることが難しいという課題がありました。しっかりとした拠点を構えようと考えてユースセンターの構想に至りました。

田中:ユースセンターができて、相談件数は増えましたか?

今井様:めちゃくちゃ増えてます…

心身の相談、経済状況の相談や住居の相談など面談で話を聞くなど、すでに100件を超えています。また、病院への同行、行政手続きの支援など、ひとりひとりに合わせた必要な対応を行っています。

それをユースセンター休業日にスタッフが対応している形になります。

田中:ユースセンターは休業でも、スタッフさんの支援活動は動いているってことですね…

今井:今、正社員・アルバイトなど10名で対応しているんですけど、今後は13〜14名体制で運営しないと追いつかない状況です。

物件探しから始まったユースセンター構想

−いざユースセンター開業を目指して動き出した時のお話を伺ってもよろしいですか?

今井様:とにかくクジラさんのスピード感がすごかった、ありがたかったです。D×P内でも「結構無理なスケジュール言ってるよね…」という話になってました笑

藤本:矢野と今井様の元々の人間関係があったのに加えて、ユースセンターの運営面での事情も聞いておりましたので、今回は全体的にスピード重視という認識で、弊社チームも動いたと思います。

今井様:もちろん事業なので、他の会社への依頼も検討したんですが、最終的に矢野さん(クジラ)に依頼しようと思ったのは、物件探しからデザイン・施工までワンストップでやっているのも大きな要因でした。

なんせ早くユースセンターを開業しないといけなかったので笑

−いざ物件が決まり、どのような部分からプランしていったのでしょうか?

藤本:最初に、野津様から大まかに要望を聞いていたので、それをひとまず図面資料にまとめて議論を開始しました。

NPOのリノベーション

▲初回打ち合わせ時資料

矢野:この初回の資料覚えてます?

野津様:懐かしいですね!

藤本:ひとまずやりたいことを全て列挙していただき、それを具体的な資料にして眺めながら議論するのがいいと考えていました。

  • 20人くらいが集まれるように
  • みんなで食事が食べられるように
  • ゲームがしたい
  • 本を並べたい
  • 音楽をかけたい   …など

やりたいことに対して必要な広さは確保できるのか?などを検討する必要がありましたね。

田中:この序盤の打ち合わせの最後に、矢野が「図面とかの話の前に、一度『子どもたちにとっての居場所』について話す機会を設けましょう!」って言ってたと思うんですけど、その時のことも聞きたいですね。

「この場所が無いと困る」を作る。

矢野:野津様の要望を図面という形にしたことで、とても議論しやすかった覚えがあるんですけど、その時率直にピンと来なかったんですよね。

「D×Pがやろうとしているユースセンター、そしてその先に求めている結果ってなんだろう」って考えた時に、より多くの子どもたちに来て欲しいし、ユースセンターにいる時間も短いより長い方がいいだろうし…

D×Pの支援を必要とする子どもたちにとって「居心地の良い場所」っていうより、「この場所が無いと困る」って思ってもらえるようなユースセンターってどんなものだろうって、思ったんですよね。

テーブルの上の資料を眺めてたら段々と「イケてないな」と思ってしまい、どこか“作り手側の要望を詰め込んで、予算内に収めた”っていう風に見えてしまって。

「予算上がるけどお願いします!」と言えるくらいの覚悟でいいモノ作ろうって考えて、「一度みんなで、ちゃんと10代の気持ちになりましょう」という提案をしました。

田中:そういった提案をクジラからさせて頂いた後、D×P内で「クジラ、めっちゃ踏み込んでくるやん」みたいな不満とか出てこなかったですか?笑

矢野:人の事業にグイグイ入ってくるような感じは無かったですか?

今井様:無かったですよ!「ちゃんと口出ししてもらえる」という印象でした。

矢野:よかったぁ…汗

田中:そこからユースセンターの設計の打ち合わせを保留にして、10代にとっての居場所を議論しましたね。

矢野:自分達の10代の頃をちゃんと思い返すと、先輩・後輩との一歳差がとても大きく感じたり、大人に「そんな道端や階段に座るんじゃない」って言われても疑問に感じたり、ちゃんと“10代ならではの景色や感情”がありましたよね。

そんな10代の目線になってもう一度、いろんな居場所についてD×Pスタッフのみなさんと擦り合わせていきました。

田中:そこから、今回のユースセンターの設計プランの目玉として階段ベンチというアイデアを提出したのですが、率直に最初見た時はいかがでしたか?

今井様:これは、直感的に「良い!」って思えたし、ユースセンターが素直にイメージできましたね。

お気に入りの場所を見つける「階段ベンチ」

コミュニケーションスペース

今井様:結果的にも、この階段ベンチがとても使われる場所となりました。

子どもたちが、いろんな形で自分の定位置や使い方を決めているみたいです。この階段ベンチの案はD×P内でも反対は一切ありませんでした。

矢野:この案がOKになった時は僕もユースセンター開業後のイメージが一気に湧いたのを覚えています。クジラとしても、常に目指している「この場所があるから、人の心が動く」というようなデザインとして、出来上がる前から手応えを感じていました。

ユースセンターに限らず、10代が集まる場所としては階段ベンチはとても有用だと思います。

今井様:秘密基地感もありますしね。一番高いところで寝ている子もいたり、最近は階段下の奥でゲームをしています。ものすごく自由に使ってもらってますね。

藤本:スケジュールがタイトな中、設計以外の深掘りの議論も経て、さらに階段ベンチの細かな寸法調整までこだわったのが印象的でした。

矢野:階段ベンチの設計を確定しなきゃいけないタイミングで、「最後もう少しここの寸法を変更して」って無茶振りしましたね笑

階段ベンチの周辺を身長160〜170cmくらいの人が歩いても、その目線が上に座っている人たちの足にぶつかるくらいの高さにすることで「見られている感」を減らしましたね。

NPOのリノベーション

▲階段ベンチの図面

NPOのリノベーション▲最終の図面

今井様:僕でも階段ベンチ、楽しくて居心地がいいですよ。

藤本:それは嬉しいですね!

デザインの持つ力

矢野:最初に今井さんから連絡いただいた時に、「NPOにもっとデザイン取り入れません?」って話したの覚えています?

今井様:覚えています。

矢野:デザインの効果を定量的に測るって難しいんですけど、僕自身は改めて今回のユースセンターを見て、デザインの力を実感しています。

長年NPOの代表を務めてこられた今井さんとしては、どう感じていらっしゃいますか?

今井様:そこは、デザインの力をものすごく感じています。

まず、グリ下に集まる若者にとって「行きたい場所」と感じてもらえたこと。もちろんスタッフのがんばりとかもあると思うんですけど、これがよくある会議室や研修センターのような見栄えでは、ここまで若者が集まることはなかったと思っています。

機能的な部分、意匠的な部分の両方をしっかり議論してデザインを決めたからこそ、定着率も上がっているんじゃないですかね。

今井様:それと、日本にある様々な支援施設や教育施設ってどうしても無機質に感じてしまうんですよね。ヨーロッパの図書館とかを見ていると「人が集まる、温かいデザインがされているな」って思います。

NPOに限らず公共や福祉という場面こそ、もっとデザインを取り入れていくべきだと僕は個人的には思っていますね。

NPO業界全体としても、戦略的にデザインを取り入れていく。そのためにNPO以外のプロに外部から入ってもらう。そういった動きも広がっていくといいですね。

矢野:僕たちも不動産・建築のプロとして、第一線で活躍されている方達の活動を後押しするような仕事をしていきたいです!本日はありがとうございました!

認定NPO法人 D×P 公式サイト

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WRITERこの記事を書いた人

代表取締役 / プロデューサー

矢野 浩一KOICHI YANO

代表取締役(プロデューサー) / 宮崎県出身 / お客様の“不安”を”安心”に転換できるプロデュース / お客様と一緒にチームを作るのがクジラ流です。とことんこだわりたいお客様から、「どうしていいかわからない」というお客様までクジラスタッフを上手くご利用ください。

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