インタビュー|【NPOが目指す秘密基地とは】居場所への没入度をデザインする
-生まれ育った環境に関係なく、デジタルの学びで中高生に希望とワクワクを。
を掲げ、中高生に向けた様々なデジタル教育を提供する認定NPO法人CLACK(以下、CLACK)。
代表の平井様は、Forbesが認定する「FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023 日本発 世界を変える30歳未満」に選出されるほど、その活動に注目が集まっています。
親世代の所得格差が、子どもの教育格差や将来の所得格差につながってしまう、世代を超えた「貧困の連鎖」を解消すべく奮闘するCLACKが開業した「よどがわベース」へのこだわりを、クジラPJメンバーがインタビューしました。
▼今回のPJメンバー
CLACK代表:平井様
CLACKスタッフ:井上様
クジラ代表・ディレクター:矢野
クジラデザイナー:藤本
クジラ施工管理:西山
目次
開業直後の感想
−改めまして、よどがわベースのOPENおめでとうございます。いざ開業してみて率直な感想はいかがですか?
平井様:子どもたちからも非常に好評です。初めて来る子ども、リピートする子どもそれぞれによどがわベースでの過ごし方にも特徴があります。
初めて来てくれた子どもがひとまず過ごすのは入り口に近い手前のフリースペース。奥の空間はリピートしている子どもがラボ的な使い方をしています。
居心地を求めたり、コミュニケーションを取りたいときは自然と手前のフリースペースに集まってくる感じですね。
井上様:プランの検討段階で、クジラさんから「空間を2つに分けて、奥に行くほど利用者の“空間への没入度”が深くなるようにしましょう」と提案を受けたのが印象的でした。
井上様:率直に「なるほどな」と思いましたし、実際開業するとそのようになったと思います。毎日来るような子どももいまして、奥のスペースでゲームする人や絵を描く人など作業に集中している感じですね。
平井様:いろんな意図を持った子どもが共存する場所にしたかったので、奥に行くほど他人に邪魔されずに集中したい人がいて、ゆるく過ごしたい人や、ペッパーくんと遊びたい人などはフリースペースで過ごす…などのゾーニングがされていてすごくいいです。
矢野:個人の時間と他人とのコミュニケーションの時間がきっちりと区別されずに、ゆるやかに分けられているという感じですかね?
平井様:そうですね。
令和版の秘密基地
−打ち合わせが始まった時のことをお聞かせ頂けますか?
藤本:「ゲームする」「ゴロゴロできるように」などの用途や、想定している利用人数に合わせたテーブル・椅子の数など、CLACK様のご要望が具体的でしたので、初回のプランはそれに沿って作りました。
それ以降の打ち合わせでも細かな修正は多々あったものの、進めやすかったと思います。ひとつだけ難点だったのは、施設の面積がご要望に対して少し狭かったことですね…笑
平井様:ただ、その狭さが結果的に良かったです。
ここに来る子どもたちはみんな一人で来ているので、同じクラスや学校の人がいないところで過ごしているんですけど、予想を大きく上回って他人とコミュニケーションを取っています。
ものすごく仲が良くて、変な話ですがよどがわベースが「友達を紹介したくない場所」になってきています。笑
矢野:それは面白い!
平井:利用者の中には不登校の子ども多いので、自分自身に取って居心地の良いよどがわベースにあまり他の人を連れてきたくない(紹介したくない)という状況になってきてまして…本当に秘密基地になってしまいました。笑
矢野:子どもたちにとってもしっかり「秘密基地」という認識になっているということですよね?
平井様:そうですね。すごい一体感が生まれています。
デザインの議論が生んだ多くの気づき
−具体的なプランを決めていった際のエピソードをお聞かせ頂けますか?
矢野:先ほど藤本が言っていた初回案(図面)って、こちら覚えていますか?
▲初回プラン
井上様:いやぁ、全然今と違いますね!
僕たちが(建築について)何もわからない中で、クジラさんからの「奥と手前を分けましょう」という提案をきっかけに、『どんな人が使うかのグラデーション』と『どんな使い方をするのかのグラデーション』について議論できたので、自分達のやりたいことへの理解度が高まりました。
▲最終プラン
井上様:トイレの位置も、最初は漠然と「奥の方かな」と考えていたのですがクジラさんから「女性も利用するなら、部屋の奥にあるより手前の方が良くないですか?」という問いかけがあったので、「そもそも女性の利用者が今より増えていくイメージでいいよね?」という議論にCLACK内で発展させることができたのも良かったです。
藤本:手前のフリースペースと奥の集中スペースをアーチ方の壁でゆるやかに仕切ったのも、物理的な分断を生まない一方で、作業している人にとっては少し「周囲の目線から隠れている状態」になれて良いですよね。
平井様:壁面のオレンジ色も、外から見た時に窓越しに目に飛び込んでくる感じがとても良いです。
初めて来る子どもにとってわかりやすい場所であり、室内には他人の目を気にせず集中できる場所もちゃんとあるっていうのが良いですよね。
井上様:内装イメージについても、クジラさんに用意してもらった資料を通ってくれている中高生に見せて好みを聞くと、僕たちが予想していたものと違うものを気に入ってたのに驚きました。
▲内装デザインについて中高生に配布したアンケート
矢野:内装イメージについて、中高生にアンケート取ってよかったなという実感はありますか?
井上様:多分アンケート取らずに僕らとクジラさんで決めていってたら「オシャレになり過ぎていた」と思います。実際にいろんな内装イメージを中高生に見せると「こっちが好みなんや」ってことも多々あって。
僕たちが思っていたことと、実際に利用する子どもたちのギャップを確認できたのが良かったです。
矢野:「空間の議論」と「事業の内容やターゲットの議論」を行き来しながら具体的に決めていったという印象でしたか?
井上様:そうですね。
やらないことを決める
−予算面や工法など、専門性の高い課題もいろいろあったと聞いております。
西山:プランの段階から、予算内に収まるように工法もいろいろと考えないといけなかったんですけど、特に建物の古い壁をどう処理していくかについて藤本とたくさん議論しましたね。
西山:そのままセオリー通りに考えてプランしていたら、予算も工期もオーバーしていたと思います。
矢野:見方によっては中途半端にも見える部分が生まれる提案に対して、CLACK様が柔軟に決断してくれたのも上手くいった要因です。
「やらないことを施主様にご決断頂く」ことの重要性を改めて感じました。
西山:壁の件だけでなく、全体的に「ここは見せたいポイントなんだな」とわかるような、プラン内容のメリハリがあったのも施工担当としてやりやすかったです。
商店街内という立地は少し慎重になりましたが、近隣の方から苦情なども来ることなく進んでよかったです。
藤本:職人さんも、近隣のお店を積極的に使って人間関係作っていたみたいですよ。
平井様:そうなんですね!
利用者像を意識したデザイン
−10代の子どもたちが利用する場所として、こだわりを実現できたと感じる部分はありますか?
井上様:やはり内装デザインですね。
業界で「居場所」というと、割と小学生向けに作られていてもっとポップなイメージになりがちなんですよね。小学生・中学生・高校生が混じって使う場所でも、小学生に合わせて作ることが多い印象です。
そうすると、壁紙に柄が入っているなどの可愛い印象のデザインになったりするんですけど、今回は「居場所だからこう作ろう」と考えずに、中学生・高校生という利用者像を意識して決めていけたのが良かったです。
平井様:「家とチェーン店との間くらいを目指そう」という話をした覚えがあります。
井上様:結構「カフェっぽい」と言ってくれる人も多いです。
矢野:社会的な支援をする業界内での「居場所」というと、共通するデザインイメージみたいなものがあるってことですかね?
井上様:そうですね。「なんか公民館っぽい」みたいな感じです。笑
矢野:実際、社内の議論でも「子どもたちにとって、日常と非日常の中間くらいを目指そう」と話していました。
井上様:よどがわベースは、無機質ではなくちょうど良いくらいの暖かさを感じるデザインになったと思います。
矢野:クジラとしては、CLACKのように困っている人を支援するような事業体(NPOなど)こそ、もっと戦略的にデザインを取り入れていってほしいと思ってますし、僕らは予算やNPOのいろんな事情を組んでそれを実現できる会社でありたいと思っています。
実際にNPOという立場からいかがですか?
平井様:それについて僕は、「昔は場所を選ぶ時代じゃなかった」と思っています。
貧富の差はあれど、今は安く服も買えるし、スマホひとつでいろんな欲求も満たせます。旧来型の居場所の作り方では、利用者の「行きたい」とか「居心地が良い」を作れません。
また、利用する子どもたちが「あの施設に出入りしている人は貧乏な家の子どもだ」と周囲から思われてしまう問題も考慮しなくてはなりません。
藤本:子どもたちにとって「行きたい」と思える場所が必要ってことですよね。
平井様:学校が均質的なイメージというのも大きいですよね。小中学生あわせて不登校者が30万人いるという時代ですが、いじめだけが原因で不登校になった子どもばかりではありません。
いろいろな要因があって不登校になっていると思いますが、家と学校以外に「行きたい」という場所が必要なのは確かです。
矢野:多くの学校が今の子どもたちのニーズに沿っていない、昔からアップデートされていない、という課題を抱えているのかもしれませんね。
藤本:公立の学校でも有名な建築家が設計した事例もありますが、まだ希少な事例だと思います。
平井様:よどがわベースでは、限られた面積・予算の中で多くのことをこだわれたと思っています。
換気扇の位置や、照明の明るさ、電源の数と位置など子どもたちにとっての「行きたい」と「居心地が良い」の良い塩梅を実現することができました。
矢野:居場所そのものがアップデートされて、そこに訪れる人たちの暮らしや人生が上向くようなお手伝いができるクジラを目指していきたいと思います。
今日は本当にありがとうございました!
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