ドラマの世界観は、暮らしに“翻訳”できる。『大豆田とわ子と三人の元夫』に学ぶ、軽やかな部屋づくり【デザイナー・菅原が語る、施工の裏側。】

ドラマを見ていて、ふと「こんな空間に住めたらいいな」と思ったことはありませんか。
部屋には、その人の生き方がにじみ出ています。だからこそ、映像作品のインテリアは“憧れ”で終わらせず、暮らしづくりのヒントとして扱える。
今回取り上げるのは『大豆田とわ子と三人の元夫』。
ユーモアと温度感のある人間関係を描くこの作品は、インテリアもまた、軽やかで奥行きのあるバランスを持っています。実際に、この世界観に惹かれた施主さまが「自分の暮らしにちょうどよく落とし込みたい」とリノベーションを選びました。
この記事では、クジラのデザイナー菅原が、“憧れをそのまま再現しない”ための設計の考え方を、専門家目線で整理します。
![]() | Writer 菅原沙絵 デザイナー WORKS 2017年に新卒入社以来、住宅だけではなく店舗や宿泊施設のデザインも担当してきた。 お客様の理想を正確に捉え、ヒアリングを中心にデザインしていくことを得意としているデザイナー。 CREATOR’s STORY|菅原 沙絵 |
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目次
ドラマの世界観を支える3つの要素
『大豆田とわ子』の部屋が心地よく見える理由は、派手な家具や高価な素材ではなく、空気のつくり方にあります。今回の案件でも、次の3つを“設計の軸”として扱いました。
①淡いトーンがつくる、透明感のある軽やかさ
主張しすぎない淡色は、部屋の空気をやわらかくします。ミントがかった青や、白に少し色を含んだ壁は、光を受けると明るさが「面」ではなく「空気」に広がる。結果として、部屋に入ったときに肩の力が抜けるような軽さが生まれます。
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②少し“ずらす”ことで生まれる、遊びとリズム
きっちり揃えすぎない。シンメトリーにしすぎない。色・素材・配置をほんの少しずらすことで、空間にリズムが出ます。整えたのに堅く見えないのは、この“ずれ”があるからです。
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③生活感を「欠点」ではなく「キャラクター」にする余白
散らかっていても成立するのは、だらしなさではなく“余白の設計”があるから。見せる棚、置いても絵になる小物、器やカップが残っても雰囲気が崩れないテーブルまわり。生活感がその人らしさとして機能すると、部屋に奥行きが出ます。
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世界観を暮らしに翻訳する、4つの具体策
ここからは、ドラマ的な空気を“現実の暮らし”に落とし込むための具体策です。ポイントは、真似ではなく再現可能な要素に分解すること。
①壁の「淡い色」で、光の質を変える
軽やかさをつくる最短距離は、壁の色です。おすすめは、白の代わりに“薄い色”を入れること。淡いブルーやミントは、光をやわらかく受け止め、部屋全体の空気を軽く見せます。

【ここがTip】
・サンプルは最低でも数枚(できれば10枚前後)比較する
・昼/夕方/夜(照明下)で見え方が変わる前提で選ぶ
・「ドラマの青」ではなく「自分の家で長く愛せる青」に着地させる
②“揃えない”をルール化して、こなれ感をつくる
遊び心はセンスではなく、ルールで作れます。例えば「色を一箇所だけ変える」「素材を2種類混ぜる」「真正面を避ける」。この“少しのずらし”が空間にリズムを生みます。

【ここがTip】
・色:ベース(淡色)+差し色(オレンジなど)を“1点だけ”
・素材:木+金属/木+ガラスなど、2素材で十分
・配置:ソファやラグは、真正面ではなく少し角度をつける
③生活感を「隠す」より、「受け止める場所」をつくる
片付けのストレスを減らすには、全部を隠すより“受け止める場所”が効果的です。オープン棚、カゴ、トレー。生活の途中で発生するものを、一旦置ける場所があると、散らかりが“破綻”になりません。

【ここがTip】
・“見せる収納”は、サイズと定位置を決める(置き場が曖昧だと破綻する)
・小物は「セット化」して置き場をつくる(単品置きを避ける)
・「出しっぱなしでも成立するゾーン」を最初から許す
④木の質感と照明で、淡色空間に“あたたかさ”を足す
淡いトーンは、放っておくと冷たく見えることがあります。そこで効くのが木の質感と照明。木目の表情、手触り、経年変化のニュアンスが、淡色空間に温度を与えます。さらに照明が「影」をつくると、部屋は一気に立体的になります。

【ここがTip】
・木は“ナチュラル”一択ではなく、床や建具との相性で濃淡を選ぶ
・照明は「明るさ」より「影」を意識する(フロアランプが効く)
・壁色×影の相性が良いと、空間の完成度が上がる
専門家として言いたい「やらない判断」
世界観づくりは、足し算だけでは成立しません。今回のような淡色×遊びの設計では「やらない判断」が出ます。
・淡色を増やしすぎると、ぼやける→“差し色は一点”に絞る
・オープン収納を増やすと、散らかって見える→受け止める場所を限定する
・照明を凝りすぎると、暗い家になる→影をつくる照明と、作業用の明かりを分ける
“憧れ”を暮らしにするには、こうした「やらない判断」をセットで持つことが大切です。
軽やかに暮らすための心構え
軽やかさは、丁寧さの結果というより、完璧を求めすぎない設計から生まれます。
・完璧に整えるより、余白を残す
・生活感を無理に消すより、“成立する仕組み”をつくる
・憧れを再現するより、自分の暮らしに似合う形に翻訳する
空間は、その人の生き方を映す鏡です。少しの曖昧さや余白があるからこそ、暮らしは続いていきます。
世界観への憧れを現実にちょうどよく
今回のリノベーションで大切にしたのは、ドラマの空気をそのまま持ち込むことではありません。“軽やかさ”を生む要素だけを抽出し、暮らしの条件に合わせて翻訳することでした。世界観への憧れが、毎日のストレスを減らし、ふたりの時間を整え、次の暮らしを照らしていく。その変化をつくれるのが、リノベーションの価値であり、私たちが大切にしている住まいづくりです。
▼『大豆田とわ子』の世界観を暮らしに翻訳したリノベーション事例






