CREATOR’s STORY|作る人と使う人、目指す姿は同じであるべき?
私たちの「日常」が誰かにとっては「非日常」である。
SEKAI HOTELは2019年に商人の街と言われる東大阪市の“布施”に2拠点目としてオープンしました。
たとえ観光地でない小さな街でも、普段見慣れた日常が誰かにとっては価値のある体験になるという事をコンセプトにしたホテルです。
SEKAI HOTELは、今も活気溢れる布施商店街の中に、クジラが空き家をリノベーションした客室が点在しています。
そして、2020年11月に7棟目の客室“N7”が完成しました。
SEKAI HOTEL
社名や拠点は違うけれど、学生インターンの頃から一緒に過ごす事が多いクジラとSEKAI HOTELのメンバー。
客室の物件探しから設計施工をしているクジラと実際に利用者の声を一番近くで聞いているSEKAI HOTELが、7棟目まで作り上げて感じた事をそれぞれの視点からラフに、時々アツく語っていただきました。
バックパッカーで世界一周した経験があるSEKAI HOTEL Fuse支配人の久米、クジラからはSEKAI HOTEL立ち上げの時から関わっていた設計の高橋、施工管理の松田に、同じくディレクターの本荘が話を伺いました。
▲手前から、高橋・久米・松田
目次
街の自慢できる一部になりたい
本荘:SEKAI HOTELって地域のお店とか人を魅力にしているホテルですけど、SNSでホテルを探すから客室自体のかっこよさも大事だなとプライベートでホテルに宿泊する時に感じました。
やっぱり口コミの広がりを作る役目もある客室デザインで“映えるポイント”とかは考えたりしましたか?
高橋:この角度から撮ったらすごい映えるやろうな〜とかは考えながら設計したかな。布施は町工場をイメージしたデザインにしているから、工場の写真をいろいろ見ている時に大きいサインが特徴的だなと思っていて、それをエントランスに取り入れました。その時に、お客さんがここで写真を撮れる“映え”ポイントになるなと思っていました。
本荘:やっぱり意識したりするんですね。商店街の空き家をリノベして客室を作ることで、布施にどう還元できるというか、影響を与えられるところって何か感じていますか?
高橋:客室の外部のサイン工事している時に、近所のお母さんが、「ここってもう7室目なんや」って声かけてくれはって、そもそも7室もあるって知らんかったし、この部屋の内装を見たのが初めてやったみたいで話かけて貰えたのは嬉しかったかな。建物の外部にサインを入れてるから、外から見て何かが分かってもらえるデザインにする事で、今はそれで認知されているのかな?
松田:外から何をしてるか分からん所より、ちょっと気になるな〜から話しかけてもらえるきっかけを作れたら勝ちやんな(笑)
本荘:SEKAI HOTELの事をよく知っている設計施工が現場にいるからできる事ですね。
高橋:ちょっとでも興味持ってもらって、地域の子供とかも見に来てくれたら良いな。それで、色んなデザインに興味を持つきっかけになってくれたら嬉しいよな。
本荘:毎日布施にいる久米くんはどう思う?
久米:映えの所もそうやけど、街に自慢できる部分が増えていくってのはいいなと思ってますね。たまに住民の人は布施って何もないやんって言うけど「いや、SEKAI HOTELってお洒落なところがあって、、、」みたいに話のネタになれば貢献とは言わないですけど、SEKAI HOTELが街の自慢できる一部にがなっていけたらめちゃくちゃ理想的やな。それにはもちろんかっこいいデザインもいるし、SEKAI HOTELの人間がかっこいいことも必要やと思うし。
松田:爽やかやな…
全員:(笑)
お互い様やんな
本荘:地域創生とかの考え方で“貢献”っていう言葉が頭に浮かぶ時があるけど、それってSEKAI HOTELにしっくりこやんな〜といつも違和感に思ってるんやけど、“貢献”っていう言葉は合っているのかな?
久米:もちろんめちゃくちゃ貢献しようって考えることも一つの手だと思うし、副産物的に布施に利益があったってのもいいな〜とは思う。でもあくまで対等、“お互い様”っていう感覚が布施とかSEKAI HOTELには合っているなと思ってて、めちゃくちゃ尽くしすぎる必要もない。それでお互いにやっていく先に良いものがある方が、長い目で見ていいかなぁと。
見返りを求めるとか、何かを返ってくることを求めるというよりかは、自然に発生するGive & giveみたいなコミュニティを作りたいと思ってるねんな。
本荘:なるほど。こういうSEKAI HOTELが目指している事を聞くと、設計・施工のクジラ側にも活かせる様な気がしますね。今まであんまりこういう機会なかったですよね。
客室製作の裏話、、、
本荘:SEKAI HOTELのデザインは、この地域の特徴である町工場を彷彿させるような素材が使われていて、基本のテーマは揃ってるけど、客室全部が違うデザインとかそれぞれにストーリーがあって面白ですよね。それってリノベーションだからこそやし、元々の建物のポテンシャルが活かされる所だなと思います。
▲N7の客室のポイントである壁一面の波板
久米:僕もそんなに話聞けてる訳ではないですけど、他のホテルと違って、全部の客室に違うストーリーがあるんやろうなぁと思いますね。それがユーザー側に届けられたらもっと面白いやろな〜と。泊まるたびに違う部屋を案内できるし、違う“ドラマ”って言ったらだいぶかっこつけてるですけど(笑)面白いですよね。
本荘:他にドラマはあります?この部屋に関して、久米くんからお客さんに伝えて欲しい!
松田:布施はこれで7軒目やから、今までの苦い思いとか全部、、、とまではいかんけど改善していけた客室やねんな。
施工管理としては工期とか予算とか抱える物があるけど、設計が言ってる事とかほんまに良いデザインやと思うし、多少施工が難しくても叶えてあげたいっていう想いがいつもあるねんな。
例えばこのベンチはパレットを使ってるねんけど、当たり前やけどパレットって家具用に作ってる訳ちゃうから、ガタガタやねん。
それを座れるように組合せるって言われた時は気失うかと思ったわ(笑)
高橋:すみません。。。(笑)
久米:でも、結果かっこいい物が作れたって事ですね。
松田:そうそう。身近に居て、意見をぶつけ合える関係性やからできる事やんな。
久米:かっこいい物の為に切磋琢磨してるのってなんか良いですよね〜。
本荘:すごい内部事情やけど(笑)
SEKAI HOTELがリノベーションの見本に
本荘:この客室が宿泊者だけじゃなくて、施工事例としてリノベーション考えてるお客さんにも見てもらえるから良いよね。
久米:最近、ふらっとカフェに来た方とスタッフがお話してたら「今近くで家建ててデザインしてくれる会社探してるねんな〜」って言ってはって、SEKAI HOTELのデザインを気に入ってくれてたからクジラを紹介した事とかあったよな。
本荘:そうそう!それでクジラに問合せしてくれはって、実際に施工が決まったからね〜。
高橋:SEKAI HOTELのインダストリアルな感じが好きな人とか結構気に入ってもらえて、そのままクジラでリノベーションするとか最近多くなったよな。
久米:なんか嬉しいな(笑)
本荘:これもSEKAI HOTELとクジラが近いからできる事かもな。結構久米くんとかクジラの事とかも話してくれそうやもんな。
久米:勝手に営業してる(笑)
作る人と使う人
久米:この客室でどういう過ごし方して欲しいとかありますか?
本荘:N7は1階と2階で上下で別々のグループが泊まるってことですか?
松田:ちゃうよ、知らん人とは気まずすぎやろ!(笑)
高橋:結構オープン(笑)
本荘:3人ずつベットがあるって事ですよね。(笑)
松田:でも、寝る時に別々なのが俺的には残念かな。6人で宿泊やったら、家族か仲良い友達のイメージあるやんか。N6みたいにみんなで1つの部屋に泊まれるホテルが個人的には好きやから。でも、過ごす場所が2つあるから、楽しそうやなとは思う。
▲6人が一部屋に泊まれるN6
高橋:最初は図面上で部屋割りを2人対4人で設計しててん。でも、プランニング段階でSEKAI HOTELメンバーと部屋を見回ったときに、3人対3人の方がグループ的に多いよなってなって話になってプランを変えれたのはよかったな〜。
本荘:確かに。プラン段階から運営の声を聞けるのは強いですね。
高橋:そうそう。あと、ここが吹き抜けやから上下階でわちゃわちゃできたら写真映え的にもいいし、楽しそうやなと思って。
松田:6人やったら狭く感じるかもやけど、階段の踊り場が良いスペースになったよな。
本荘:1人で座ってても疎外感ないし、ソファと良い感じの距離感ですね!
本荘:久米くんやったらどういうお客さんをこの部屋に割り振る?
久米:あーでも、一人旅の人ですかね。
本荘:あー逆にね(笑)ゲスト属性とか人数で言うと?
久米:どうしても家族ってなると階段が問題になりますよね〜。
松田:やっぱそうなんやな。
本荘:ちっちゃい子が危ないとか?
久米:とか、物落としたりするのが怖いんよね〜。
若いカップルも良いし、50代で久しぶりに旅行した夫婦とか2人でこの部屋だと贅沢ですよね。
20-30代の方が両親を連れて行ってあげるとかの親孝行に使ってもらえると良いよな〜。
本荘:すごい妄想力やな(笑)なんかデザインするときに、そういう、イメージ像とかあるんですか?どういう人が来るかとか?
高橋:どう過ごして欲しいかの方が考えるかな。
久米:「どういう人」って所に関しては布施としてゲストの属性が決まっていれば、そこはちゃんと考慮されるところやと思うけど、ターゲットを絞るホテルじゃないと言うか。
現状、全部の客室に合わせて、僕ら側でもどんな人をどこの部屋に入れるか議論している部分ですね。
例えば、同じ建物の違う部屋でもゲストの属性によって変えてて、仕事をする人は部屋に椅子と机がある方がいいとかは考えてますね。
だから、いろんなゲストに合わせていろんな提案をできるのはいいなと思って、それがバッチリハマったときに向こうが喜んでもらえるのはすごい素敵やなと思ってやってます!
松田:あ!ずっと気になってた事があるねんけど、ゲストはサイト見てこの部屋泊まりたいって予約するやんか。
それで行ったら違う部屋案内されたら嫌じゃないん?
久米:でもそのクレームはいただいた事ないですね。
松田:それがびっくり。
久米:それだけ、どの部屋もよかったって事ですかね!
高橋:そうであって欲しい。(笑)
松田:次の客室作るときに、このゲスト属性の為の部屋ないから作ってとか聞きたいな。
高橋:もっとペルソナを知りたいよな!
久米:あ〜。僕は一人のルーム作って欲しいなと思います。
高橋:それは確かに。
あと、個人的には2人の客室を作りたいねんな〜。
自分の母親が大阪に出てきて二人で泊まる時に、現状2人部屋やと共用シャワーを使わなあかんからさ。ちょっと呼びにくいな〜と思ったり。
久米:なるほど〜。
本荘:それぞれ想像している事はめちゃめちゃあるんですね。
現場から生の声をデリバリー?
松田:N3によくゲスト入ってるイメージあるけど、やっぱり人気なん?
▲2人で一棟貸し切りにできるN3
久米:人気ですね。入った時のリアクションおっきいですね。N5もおっきいですけど、でもまあN6もおっきいか。。
高橋:多分N3とN6は玄関を開けて部屋がひと目で見て分かるから、最初のリアクションすごいおっきいんでしょうね。で、N5は
久米:じわじわとね
高橋:そうそう、階段登って「え、どんなんなってるんだろう」ワクワク見たいな。(笑)
松田:なるほど、嬉しいな。設計に言っとこ
▲2階建の6人部屋N6
久米:立地もいいですしね。商店街が目の前やから。
ゲストが朝フワフワと寝ぼけながら商店街出てきたときに、「今商店街におるんやった」ってなる。っていう話を聞いているとすごい非日常やし、「自分はこんな所にいてるんだってスイッチが入る」って聞くとやっぱ商店街に面しているってのはいいなと思うな〜。
なのでN7も楽しみ。ちょうどチェックアウトの時間がみんなシャッター開け出す時間なんで。
▲N7のエントランスは昔の看板がそのままに
本荘:おもろいですね。
久米:自分が目覚めると同時に商店街も目覚めていくっていうのがいいな〜って
松田:それやったら窓あったらよかったな。窓を作るのは建物構造的にむりやったけど。
本荘:デザインするときに、商店街にあるからこそ、音とか匂いとか中に取り込めたらいいですよね。
高橋:商店街viewしたかった!
久米:ゲストに体験してもらうとここの子になった見たいって言う反応してくれるから、そこは今後やって欲しいですね。
松田:わかりました!!
久米:唐突ですけど、設計しててどの瞬間が楽しいなと思うんですか?
松田:設計は内装出来上がってきた頃じゃないの?
高橋:解体と内装仕上がった時かな。
松田:それくらいやもんな、生き生きと来てくれるの(笑)
高橋:そんな事ないよ!!(笑)
久米:施工管理側は?
松田:それはやっぱ完成やわ。
高橋:内装仕上がるより、電気ついたときがテンション上がる。
松田:確かに。電気が一番怖いもんな。(笑)それで結構変わるやんか。
高橋:設計の学校で「照明はお好み焼きでゆうたらソースや」って言われた。
それで全部が決まるって。それは今めっちゃ実感する。
久米:出来あがった時のやりがいとかは僕ら側で、一発目のゲストが泊まった時にもう一回実感させれるようにできたら良いなと思います。例えば、ゲストにもお願いして「出来上がって初めてなんですけど」って映像として撮って、ゲストにも渡すし、現場側にも見せれる様に。
そういうのを見て、もう一つ作る理由になればいいなとN6のときに思ったんですけど。そんなんで変わらんねやったらいいんですけど(笑)
作ったものを誰かが泊まる瞬間を見たいのかどうかって事です(笑)
高橋・松田:見たい!!
松田:めちゃ思うそれは。施工管理は、基本建物を作った人の名前あげる時に設計になるやん。だから「施工管理は表舞台にでえへんからやりがいは見つけづらいよ」って先輩にずっと言われてて、ほんまに喜ぶのは施主検査の時にお客さんが喜んでくれたら嬉しいくらい。お客さんの顔が見れへんかったらほんまやって行かれへんと思う。気持ち的に。だからそれは嬉しい。
久米:それN7でやりたいですね。
松田:やりがいに関わるよ。職人さんとかも実際そうやから。
久米:僕らができる事が分からへん。
本荘:KUJIRA AWARDで見せれるようにしようや。
住宅と違って毎日のように宿泊者の感動が起きてるから、いろんな人が感動してる顔が見れると思う。
久米:お客さんにもいい経験になる気がするねんな〜。こっちだけのメリットだけじゃないと思う。
普段地域の人でも、見たことないから来たいって言う人も結構いるけど、でも、おじいちゃんおばあちゃんだと階段が心配だし、商店街から外れると遠いから紹介しづらくなっちゃうから。この距離感でこの段差の感じだったら見せやすいなと思う。
それも撮れるなら撮りたい。
松田:それを見た後の職人さんの顔も見せてあげたい!
久米:その職人さんの顔をみたスタッフも顔も(笑)
久米:僕らはゲストが喜んでるのは見えるけど。別にレビューを共有する訳でもないし。その辺はこっちでやらなあかんなって。
おんなじ会社でやってるメリットを最大限に活かし切れてないよね。生の声をデリバリーする見たいな(笑)
ちょっとちゃうか(笑)
全員:(笑)
本荘:きっと現場は見慣れちゃうしね。アンテナ立てておかないとね。
久米:あと、全部屋語れるのはほんまに強いと思う。
どのホテルも基本同じで、景色が違うくらいやけど7回泊まりに来たら7回違う部屋に泊まれるもんね。
だから、そのストーリーをもうちょっとキャッチアップしたい!
高橋:そう考えると、この場がすごいいい機会やな。
作る人と使う人、目指す姿は同じであるべき?
今回初めて社内で対談しました。
建築は建てて終わり、ホテルは提供するだけ。それでは良いものは作れないとこの対談を通して改めて感じました。
SEKAI HOTELの世界観を表現するには、現場のスタッフだけが作り上げていくものではなく、設計デザインを考えて施工している間も地域との関係が大事になっている
誰かだけが損得するような作り方ではなく、“お互い様”という関係がこれからも街を作り上げていくのではないかとワクワクしています。