2026.08.21
最終更新日
2026.10.09
施主様インタビュー

顔は見えなくても「おやすみ」が聞こえる“3連長屋”をつないで生まれた親子3世代の住まい

実家の隣にある長屋を買い、もともとの住まいとつなげる。

武田邸のリノベーションは、そんな選択から始まった。親と近くに住むこと。子どもたちが祖父母の気配を感じながら育つこと。何かあれば、すぐに声をかけられること。


それは、家族にとって安心のある暮らし方だった。ただ、近ければいいわけではない。親世帯には親世帯の生活があり、子世帯には子世帯のリズムがある。仕事の時間、食事の時間、子どもたちの過ごし方、ひとりで落ち着きたい時間。近くにいるからこそ、距離の取り方はむしろ難しくなる。

この家で考えられているのは、親子3世代が同じ場所に暮らすことそのものではない。それぞれの暮らしを守りながら、必要なときには自然につながれること。その距離感を、長屋という建物の中でどうつくるかだった。

実家の隣に暮らしを広げる

新しい土地を探すのではなく、実家の隣に暮らしを広げる。

この選択には、利便性だけではない意味がある。家族がすでに暮らしてきた場所があり、その隣に空き家がある。見慣れた道、近所との関係、子どもの頃から続いている風景。その延長に、これからの暮らしを重ねていく。

古い長屋を壊して終わりにするのではなく、手を入れて、今の家族が暮らせる形に変えていく。それは建物を再利用するというより、家族の時間をつなぎ直す作業に近いと言えよう。

“親の近くにいたい。けれど、完全な同居ではない方がいい”


その感覚は、いまの家族にとってかなり現実的だと思う。親孝行を、同じ屋根の下で暮らすことだけに限定しない。近くにいることと、生活を分けること。その両方を成立させるために、住まいをどう使うか。

武田邸は、その問いから考えられている。

3連長屋をひとつの住まいにする

長屋をつなげると聞くと、壁を抜いて広い家にするような印象を持つかもしれない。

でも、実際はそんなに単純ではない。長屋は隣り合う住戸が構造を共有している。抜ける壁もあれば、残さなければいけない部分もある。光の入り方、風の抜け方、家族が行き来する動線。元の建物が持っている条件を読みながら、ひとつの暮らしとして整えていく必要がある。


大事なのは、全部を一体化しすぎないことだった。親世帯と子世帯が行き来できること。家族が集まれる場所があること。一方で、それぞれの時間を過ごせるゆとりもあること。

つながっているけれど、すべてが見えているわけではない。声や気配は届くけれど、生活が入り込みすぎない。その塩梅が、この家の中心にある。

様々な世代の声が届く距離の中にいる

この家を象徴する言葉として、「おやすみ」がある。

顔は見えなくても、家のどこかから声が聞こえる。夜、子どもたちが眠る前に交わす何気ないひと言が、家族が同じ場所にいることを伝えてくれる。

住まいの距離感は、図面だけではわからない。近すぎると落ち着かない。遠すぎると、せっかく近くに住んでいる意味が薄くなる。家族の気配があることと、暮らしを分けること。その両方があって、はじめて安心できる。


武田邸では、視線や音の届き方が大切にされている。いつも顔を合わせるわけではない、けれど、声は届く。何かあれば気づける。子どもたちにとっても、祖父母が暮らしの中に自然にいるのだ。

それは、イベントのような家族時間ではなく、日常の中にあるつながりだった。

「親孝行」を「距離感」として考えた

親と近くに暮らすことは、やさしい選択に見える。

でも、実際には簡単ではない。近くにいることで安心できる反面、近すぎればお互いの暮らしに踏み込みすぎてしまう。手伝えることが増える一方で、気を遣うことも増える。

だから、武田邸の面白さは「親子3世代で暮らす家」という言い方だけでは足りない。この家が考えているのは、親孝行を同居だけで解決しないことだ。親の暮らしを尊重しながら、子世帯も自分たちの生活をつくる。子どもたちは、祖父母の存在を近くに感じながら育つ。

親と子と孫が、それぞれ少しずつ自立している。けれど、困ったときにはすぐ声をかけられる。その関係を、建物のつなぎ方でつくっている。


リノベーションの価値は、古いものをきれいにすることだけではない。とくに武田邸の場合、実家の隣という場所を選んでいる。家族が暮らしてきた場所の隣に、次の世代の暮らしをつくる。古い長屋を、いまの家族の暮らしに合わせてつなぎ直す。そこには、新築ではつくれない時間の重なりがある。

もちろん、古い建物を扱う難しさはある。構造の制約もあるし、思い通りにならない部分もある。けれど、その制約があるからこそ、家族の距離感を丁寧に考えることにもなる。

壊して建て替えるのではなく、残しながら変える。その選択は、暮らしの効率だけでは測れない。家族がどこで、誰と、どんな距離で暮らしていきたいのか。その答えが、長屋をつなぐという形になっている。

家族の変化を受け止める家として

家族のかたちはこれから変わっていく。子どもたちは成長し、親世帯の暮らし方も変わるだろう。夫婦の働き方や過ごし方も、少しずつ変わっていくから、住まいは完成しすぎない方がいいのかもしれない。

いまの暮らしに合わせながら、これからの変化も受け止められること。子どもたちが小さい時期のにぎやかさも、成長して部屋の使い方が変わっていく時期も、親世帯にサポートが必要になる時期も、この家はその都度、使い方を変えながら暮らしに寄り添っていくのだ。


武田邸は、3連長屋をつないだ住まいだ。ただ、本当に設計されているのは、建物のつながりだけではない。親と子、孫。これまでの暮らしと、これからの暮らし。そのあいだにある距離を、無理なく整えている。

顔は見えなくても、「おやすみ」が聞こえる。それくらいの近さが、この家にはちょうどいい。

WRITERこの記事を書いた人

クジラ 編集部

中崎町にあるリノベーション会社です。不動産探し、住宅ローンのお手伝い、設計デザイン、施工、インテリアコーディネートまでワンストップでお手伝いさせていただきます。お客様に最適な暮らし方のご提案をさせていただきます。

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